AIをどの業務から始めるか。最初の1業務を決める4つの条件

AI導入がうまくいくかどうかは、最初に選ぶ1業務でほぼ決まります。選ぶ条件は4つ、外すべき業務は3種類。30分でできる業務の洗い出し方と、弊社が実際に選んだ順番まで書きます。

この記事の要点

  • AI導入の成否は、最初に選ぶ1業務でほぼ決まります。ツール選びから始めると失敗します
  • 選ぶ条件は4つです。頻度が高い、手順が決まっている、間違えても取り返しがつく、1人で完結する
  • 金額の確定、対外的な約束、人事の判断は最初に外してください。間違えたときに戻せません
  • 全社一斉ではなく、1人の1業務から始めてください。社内に見せられる実例が1つできると、進み方が変わります

AI導入の相談を受けるとき、最初にいただく質問はだいたい同じです。

「うちは何から始めればいいですか」

この質問は正しいです。AI導入がうまくいくかどうかは、最初に選ぶ1業務でほぼ決まります。 ツールの選定でも、研修でも、予算でもありません。

ツール選びから始めると失敗します

よくある入り方が、これです。

  1. ChatGPTの法人プランを契約する
  2. 社員に配る
  3. 使い方の研修をする
  4. 各自、自分の仕事のどこで使えるか考えてもらう

一見まっとうに見えますが、4番目が宿題として全員に配られています。自分の業務をAIに合わせて分解するのは、それ自体が専門的な作業です。 通常業務を抱えたまま片手間でやれることではありません。

結果として、要約と文章の清書には使われるようになり、そこで止まります。

順番は逆です。先に1業務を決めて、その業務のために道具を選びます。

最初の1業務を選ぶ4つの条件

最初の1業務の決め方。30分で書き出す、月あたりの時間で並べる、戻せないものを外す、残った上位から1つ

条件1:頻度が高い

週に何度も発生する業務を選んでください。月1回の業務を10分速くしても、体感は変わりません。頻度は、効果を掛け算する係数です。

条件2:手順が決まっている

「毎回やり方が違う」業務は向きません。逆に、前回のファイルを開いて名前を変えて作っている業務は、ほぼ確実に向いています。手順が決まっているということは、渡せる形になっているということです。

条件3:間違えても取り返しがつく

ここが一番大事です。AIは間違えます。問題は、間違えたときに戻せるかどうかです。

下書きの誤りは、人が読めば気づいて直せます。確定した請求金額の誤りは、送ったあとでは戻せません。最初の1業務は、必ず「戻せる側」から選んでください。

条件4:1人で完結する

関係者が多い業務は、やり方を変えるだけで調整が発生します。最初は、1人の担当者が始めて終わらせている業務を選んでください。関係部署の合意を取っている間に、熱が冷めます。

最初に外すべき3種類

外すもの 理由
金額が確定する業務 桁を間違えても、AIは止まりません
対外的な約束をする業務 納期や条件は、送った時点で戻せません
人事に関わる判断 説明できない基準で判断してはいけない領域です

1つ目について補足します。見積書や請求書を扱ってはいけない、という意味ではありません。金額の計算をAIにやらせてはいけないという意味です。弊社は見積書の作成をAIに渡していますが、合計金額はプログラムが計算しています。AIが担当するのは、品目と数量を埋めるところまでです。

検算できない数字を、AIに任せない。 この線引きさえ守れば、書類まわりは安全に渡せます。

3つ目の人事に関わる判断については、AI事業者ガイドラインと個人情報保護法に根拠があります。任せてはいけない業務の一覧と、その出典はAIエージェントとは?中小企業が任せられる業務と、任せてはいけない業務にまとめました。

30分でできる業務の洗い出し

条件は分かっても、自社の業務が並んでいなければ選べません。やり方は簡単です。

手順1:1週間分を書き出す(20分) その週に発生した仕事を、粒度を揃えずに全部書きます。「請求書を作る」も「Slackで進捗を聞く」も同じ行に並べて構いません。揃えようとすると手が止まります。

手順2:月あたりの時間で並べ替える(5分) 1回あたりの所要時間 × 月の回数、で並べます。ここは体感ではなく数字でやってください。体感で並べると、頻度は低いが気の重い仕事が上位に来ます。 それは別の問題です。

手順3:戻せないものを外す(3分) 上の表の3種類を消します。

手順4:残った上位から1つ選ぶ(2分) 1位でなくて構いません。上位3つのうち、手順が一番はっきりしているものを選んでください。

弊社が実際に選んだ順番

参考までに、弊社が自社で通した順番を書いておきます。

順番 業務 前 後
1 提案・サービス資料の作成 1本8時間 30分
2 見積書の作成 1件40分 3分
3 経理(記帳・請求・経費) 週5時間 週1時間

資料作成から始めたのは、効果が一番大きかったからではありません。手順が一番はっきりしていて、間違えても取り返しがついたからです。

そして順番には意味がありました。1番で作った「体裁をコードとして持つ」やり方が、2番の見積書にそのまま使えています。1業務目は、2業務目の土台になるものを選べると効率がよくなります。

やりがちな失敗

一番大変な業務から始める

「これが一番しんどいから、ここをAIで」という発想は自然ですが、一番しんどい業務は、たいてい一番複雑な業務です。例外が多く、関係者が多く、1か月では終わりません。そして終わらないまま「やっぱりAIは使えない」という結論になります。

全社一斉に始める

部署ごとに事情が違うため、全社で足並みを揃えようとすると最も進まない部署に合わせることになります。1人の1業務から始めてください。

1つ通ると、社内の空気が変わります。「あれ、本当に減ったらしい」という実例が1つあるかどうかは、研修10回分より効きます。

効果測定を後回しにする

始める前に、その業務に今どれだけ時間がかかっているかを測っておいてください。 後から測ると、比較する前の数字がありません。所要時間と月の回数、この2つだけで十分です。

まとめ

  1. 頻度が高く、手順が決まっていて、戻せて、1人で完結する業務を選ぶ
  2. 金額の確定、対外的な約束、人事の判断は最初に外す
  3. 全社ではなく、1人の1業務から
  4. 始める前に、今かかっている時間を測っておく

この選定を外すと、そのあと何をやっても取り返しがつきません。逆に、ここさえ合っていれば、最初の1業務は1か月で通ります。

弊社は顧問として入り、この洗い出しと選定から一緒にやったうえで、成果物を作ってお渡ししています。何から始めるべきかの整理だけでもお役に立てますので、よろしければ資料をご覧ください。

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よくある質問

AI導入は、どの業務から始めるのがよいですか?
頻度が高く、手順が決まっていて、間違えても取り返しがつき、1人で完結する業務です。この4条件を満たすものとしては、定型的な書類作成(見積書、報告書、議事録)、データの転記や集計、問い合わせの一次返信の下書きなどが該当します。逆に、金額の確定、対外的な約束、人事評価は最初に選ばないでください。
効果が大きい業務から始めたほうがよいのではありませんか?
効果が大きい業務は、たいてい難しい業務です。関係者が多く、例外が多く、失敗したときの影響も大きくなります。最初の1業務は、効果の大きさより「1か月で完了して、社内に見せられること」を優先してください。1つ通ると社内の反応が変わり、2業務目以降が進めやすくなります。
業務の洗い出しはどうやればよいですか?
1週間のあいだに発生する仕事を、粒度を揃えずに全部書き出してください。30分で構いません。次に、1回あたりの所要時間と月の回数を掛けて、月あたりの時間で並べ替えます。体感で「大変な仕事」を挙げると、頻度は低いが精神的に重い仕事が上位に来てしまうため、必ず数字で並べてください。
最初の1業務にかかる期間はどのくらいですか?
対象業務の選定から、実際に使われる状態になるまでで1か月が目安です。弊社が顧問として入る場合も、1か月で1業務を1周させています。3か月で3業務が通れば、社内の進め方は定着していきます。

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