この記事の要点
- 見積書の作成にかかる時間を、1件あたり40分から3分にしました。自社での実測値です
- やったのは「AIに見積書を書かせる」ことではなく、明細を渡すとPDFが出る仕組みを用意して、その明細をAIに埋めさせることです
- 金額の計算はAIにやらせていません。合計金額を言語モデルに計算させると、桁を間違えても止まらないためです
- 効くのは、月に何件も見積書を出していて、かつ品目がある程度決まっている会社です
見積書は不思議な書類です。毎回ゼロから作っているわけではないのに、毎回時間がかかります。
前回のファイルを開いて、名前を変えて保存して、宛先を書き換えて、明細を差し替えて、合計を確認して、PDFにして、メールに添付する。1件あたり40分でした。
これを3分にしました。実際に出てくるPDFと、その入力を全部お見せします。
なぜ40分もかかるのか
作業を分けてみると、「考えている時間」はほとんどありませんでした。
- 前回のファイルを探す
- 宛先・日付・見積番号を書き換える
- 明細の行を足したり消したりする
- 行を足したせいで崩れた体裁を直す
- 合計と消費税を確認する
- PDFに書き出す
4つ目が曲者です。Excelで行を1行足すと、罫線が途切れたり、備考欄が次のページへ落ちたりします。中身ではなく体裁を直している時間が、実は一番長い。
AIに「見積書を書かせる」のは間違いです
ここが分かれ目でした。
最初に思いつくのは、ChatGPTに「この条件で見積書を作って」と頼むことです。やってみると、それらしい文章は出てきますが、送れる書類は出てきません。 体裁がありませんし、金額の計算も信用できません。
やるべきことは逆でした。
見積書という「型」を先に作って、AIには中身だけを埋めさせる。
型はプログラムが持ちます。AIが決めるのは、品目・内容・数量・単価だけ。それ以外——罫線の位置も、消費税の計算も、PDFへの書き出しも——AIは一切触りません。
入力はこれだけです
実際の入力がこちらです。これを渡すと見積書が出ます。

見ていただくと分かるとおり、書いてあるのは中身だけです。フォントも、余白も、罫線も、どこにも出てきません。
AIが担当するのはこの部分です。「A社向けに、提案資料の型の設計と、エージェントの構築と、マニュアルで見積もって」と伝えると、この形に整えます。過去の見積書から相場を拾ってくることもできます。
出てきた見積書
そのまま出力されたPDFです。手で直した箇所はありません。

宛先は見本(株式会社サンプル)ですが、体裁は普段お客様にお送りしているものと同じです。
明細の行数を変えても崩れません。4行が8行になっても、合計欄と備考は自動で下がります。 ここがExcelとの一番の違いです。
金額の計算は、AIにやらせていません
この記事で一番お伝えしたいのがここです。
小計、消費税、合計。これらはプログラムが計算しています。 AIは一切触りません。
理由は単純で、言語モデルは計算を間違えても止まらないからです。「180,000 + 240,000 + 120,000 + 60,000 = 610,000」と書いてきても、それらしい見た目のまま出てきます。人が検算しなければ気づきません。
AIに業務を渡すとき、検算できない数字を任せてはいけないと考えています。金額、日付の計算、在庫数。このあたりは、AIに「拾わせて」プログラムに「計算させる」のが正解です。
逆に、品目名や内容の書き方は、多少ぶれても致命傷になりません。取り返しがつくかどうかで線を引いています。
前と後
| 前 | 後 | |
|---|---|---|
| 1件あたりの所要時間 | 40分 | 3分 |
| 行を増やしたときの体裁直し | 都度発生 | 発生しない |
| 合計金額の検算 | 毎回、目視 | プログラムが計算 |
| 月5件の場合 | 3時間20分 | 15分 |
うまくいかなかったこと
過去の見積書から相場を拾わせたら、古い単価を持ってきた
「前回と同じくらいで」と頼むと、確かに過去の見積書を参照します。ただし2年前のものを引いてくることがありました。
単価は改定します。参照させる範囲を「直近1年」に絞ってから安定しました。AIに過去を参照させるときは、いつからいつまでかを必ず指定する必要があります。
備考欄を毎回書かせようとして、やめた
最初は備考もAIに書かせていました。文章としては上手いのですが、取引条件が毎回微妙に変わってしまう。
支払条件や有効期限は、間違えると契約の話になります。ここは固定の文言を持たせて、AIには選ばせるだけにしました。書かせるのではなく、選ばせる。 揺れてはいけない箇所ほど、選択肢を先に用意しておくべきでした。
「見積書だけ」を切り出しても、あまり嬉しくなかった
正直なところ、見積書1枚だけを速くしても、月に数時間しか変わりません。
効いたのは、同じ型で請求書と発注書も出せるようにしてからでした。宛先と明細の構造は共通なので、一度作れば横に広がります。1業務だけを見て投資判断すると、たいてい「割に合わない」という結論になります。
同じことをやるなら
- 体裁を、書類ではなく仕組みとして持つ(行数が変わっても崩れない状態にする)
- AIが埋めるのは中身だけにする(品目・数量・単価まで)
- 計算はプログラムにやらせる(検算できない数字をAIに任せない)
- 揺れてはいけない文言は、書かせずに選ばせる(支払条件、有効期限)
- 請求書・発注書まで見込んで型を作る(1書類だけだと投資が回収できない)
この方法が向いている会社
月に何件も見積書を出していて、かつ品目がある程度決まっている会社です。受託開発、制作会社、人材、設備工事あたりが当てはまります。
逆に、毎回まったく違う内容を見積もる業態では、時間短縮より**「体裁が毎回揃う」**ほうが利点になります。担当者によって見積書の見た目が違う、という状態が消えます。
弊社では、こうした仕組みを御社の業務に合わせて作ってお渡しする顧問サービスをやっています。いま社内で「体裁を直している時間」があるなら、そこが最初の候補です。
よくある質問
- 見積書の作成をAIに任せると、金額を間違えませんか?
- 金額の計算をAIにやらせなければ間違えません。この仕組みでは、AIが埋めるのは品目・数量・単価までで、小計・消費税・合計はプログラムが計算しています。言語モデルは計算を間違えても止まらないため、検算できない数字を任せてはいけません。
- 見積書のテンプレートはExcelのままでもできますか?
- できます。ただし体裁の崩れやすさは残ります。この記事の方法は、体裁をコードとして持つことで、明細の行数が変わってもレイアウトが崩れないようにしています。Excelの場合は、行の増減で書式が乱れるかどうかを先に確認してください。
- どのくらいの件数から効果が出ますか?
- 月に5件を超えたあたりから体感が変わります。1件40分として月5件で3時間20分、これが15分になります。件数が少なくても、品目が毎回似ている会社では効果が出ます。逆に、毎回まったく違う内容を見積もる業態では、時間短縮より「体裁が揃う」ほうが利点になります。